インドの宇宙遊泳

鉄道が大好きだった私は卒業旅行で行ったタイ・インドの旅で、それぞれの国の夜行列車に乗るのを何より楽しみにしていた。インドではデリーからタージマハルへの移動だったかタージマハルからベナレスへの移動だったか覚えていないが、どちらにしても夜行寝台車で移動した。写真は私が撮ったものではなくインターネットから拝借したインドの寝台車の様子である。当時もこのような内装だったと思う。薄っぺらい寝台が天井から吊るされているのが分かる。車内はとにかく暑い。私が乗った最低ランクの寝台車に冷房はついていない。おまけに窓も開かない。どういう意味があるのかわからないが窓には鉄格子がはめ込まれていた。まるで監獄列車である。ただ暑いだけでなく満席だったので、人息れで気温はさらに上昇していた。

それでも旅の疲れと列車の小気味いい揺れでいつの間にか眠ってしまっていた。

翌朝。多くの人の話し声で目を覚ました。すでに夜は明けている。カーテンを開けてびっくりである。私が寝ていたベッド以外すべて乗客が腰かけているではないか。通路にも人がじかに座っている。寝ている間に途中駅からどんどん人が乗って来ていて立錐の余地もない。人、人、人。寝台も通路も人で溢れていた。私が起き上がるとそこには今まで通路に座っていた乗客がやっと空いた、とばかりに腰かけてきた。あれはいったいどういうシステムになっているのだろうか。

途中物売りが乗車してきた。通路は人で埋まっていて全く通る隙間は無い。彼は慣れた様子で、両側のベッドに足を掛け、乗客の頭の上を通りすぎて行ったのである。私の頭の上を1回も床に足を着けることなく、まるで宇宙遊泳のように列車の端から端へ移動していった。途中乗客から声を掛けられると、頭越しに品物と代金を交換していた。想像を超える国、インドである。田代