彼の名は、次郎
父は昭和8年生まれで、現在耳が遠く会話がなかなか成立しないのが辛い所。母がいる時は補聴器を使い、多少は聞こえる程度になっていた。母が入院した。補聴器紛失経験3回の父に補聴器を管理させるのはおっかない。4回目があってならないので今はケースに入れっぱなしにしている。
毎夜、父と飼い猫の次郎の世話をしに実家に行っている。ピンポンと鳴らすと、次郎が走ってきてニャーニャー鳴いているのが擦りガラス越しに聞こえる。父は聞こえないようで、なかなか出てきてくれない。玄関のドアをドンドンドン、と鳴らすが、それでも出て来てくれない。隣の住人が何事か、といぶかしげに見ている視線を背中に感じる
怪しい者ではないことをアピールするために「おとーさん!開けて!!」とわざと叫んだり、次郎の名前を連呼したりした。
音に気が付くと言うより、次郎が玄関ドアの前にいることに気が付いた様子で、ようやく鍵を開けてもらえた。聴導猫、次郎に感謝。田代