ヒオス島 エーゲ海

白い建物が山の斜面に張り付き、その先には真っ青な

エーゲ海が見える。ギリシャ エーゲ海に浮かぶヒオス島の民宿。他に客はいない。ベランダのソファーに座り海を眺めながら二つの意見の間をゆらゆらと揺れていた。

この島に来る半年前まで繊維の専門商社で働いていた。毎日朝8時に出社し、帰宅は最終電車という超多忙な毎日だったが、しかし毎日が楽しくて仕方がなかったのを覚えている。

マルタを継ぐためにその会社を退職し、一休みの為にこの旅に出た。日本に帰ればマルタでインナー分野で同じ仕事をする事になっている。今頃同期は何をしているだろうか。おそらく充実した毎日を過ごしているに違いない。27歳男子。いったいエーゲ海の真ん中でこんなのんびりしていていいのか!!もういい加減日本に帰り仕事をしろ!!

いやいやまだ27歳。これから山あり谷ありの人生が待っている。零細企業とはいえマルタを継ぐという事は会社と従業員を背負い込むことを意味する。それまでのたった数ヶ月のんびり過ごしてもいいでしょ。もうちょっと放浪旅を続けようよ。

ベランダのソファでゆらゆらと頭の中で小田原評定をしていると、視線の先に陸地が見えることに気が付いた。横浜山下公園から対岸に木更津が見えるぐらいの距離だ。宿の主人に聞くとトルコだという。まったく行き当たりばったりの旅をしていたので、事前にヒオス島がトルコと眼と鼻の先にある島だなんて調べていなかった。アテネの街を一人で歩いていて、旅行社の前に貼ってあるエーゲ海のポスターを見て、そうだエーゲ海に行こう、と思いついただけである。店に飛び込み、具体的な何島へのチケットでなく、あのポスターの島へのチケットを買った。

対岸に渡ることは出来るかと宿の主人に聞くと、船が出ているというではないか。今回の旅行中自分がトルコが見える場所に行くなんて考えもしなかった。トルコ、トルコ、いったいどんな所なんだろう?入国するのにビザはいるのだろうか。どんな観光地があるのだろうか。興味がもくもくとわいてくると、小田原評定は決してしまった。トルコに行こう、日本に帰るのはやめ。それから2,3日ヒオス島で過ごしてからトルコへ渡る船に乗っていた。着いた場所はトルコのチェシュメという田舎町。アジアに帰って来た。トルコでのお話しはまた後日。田代