マイアミ国際空港
5月26日のブログで、イスタンブールでの出来事を書いた。その二月ほど前の事である。ニューオリンズでジャズと牡蠣を堪能した後、私はセブンマイルブリッジへ向かった。セブンマイルブリッジはマイアミ半島からアメリカの最南端であるキーウエストを結ぶ洋上ハイウエイである。
ニューオリンズから早朝路線バスに乗り、マイアミ国際空港に着いたのは翌朝午前3時ごろだった。ふつう空港にバスが着く場所というのは、飛行機の出発ゲート前である。今思えばおかしな話で、私は高速道路から降りた空港へ向かう道路上でバスを下された。洋上ハイウエイを走る為にレンタカーを借りる必要があった。アメリカの空港は24時間レンタカー事務所はオープンしているので、まずは事務所を探す事にした。
バスを降りてから深夜の道路を空港目指して歩き、ようやく駐車場ゲートにたどり着いた。しかしそこには電気はついているものの人は誰もいなかった。私はゲートをくぐり、建物の中に入っていった。山積みされたベンチ、むき出しの天井、そこは工事中の空港待ち合わせロビーだった。こんなところにレンタカー事務所があるはずがないとすぐに思ったが、同時に普段入れるところでもないとも思いワクワクした。興味津々でその中を歩いて行った。窓の向こうはもう誘導路である。ドアノブを握ると開くではないか。
行くっきゃない。私はそう思った。滑走路にレンタカー事務所などあるはずがない。好奇心が理性より強く働いた。ドアを開けるとジェット機の轟音が聞こえた。私はドアから外に出て誘導路を歩いた。と、そこへさっき音だけ聴こえたジェット機が建物の陰から姿を現し、こちらに向かってくるではないか。やばい、と思った。
同時に警備員が飛び出してきて、私はつかまった。
事務所へ連行され椅子に座らされ、彼は私に向かって何か早口の英語で叫んでいる。理解できたことは彼が怒っていることだけだった。私はパスポートを見せ、自分の荷物をすべてさらし、武器は持っていないこと、セブンマイルブリッジへ行く為にレンタカー事務所を探しているうちに迷い込んでしまった事を説明した。つたない英語だったために理解してもらえるのに時間はかかったが、徐々に警備員も冷静になってきて、許してもらう事が出来た。昔のアメリカはおおらかだった。911のテロ以降なら私は逮捕されていたと思う。
その後の雑談の中で彼は朝鮮戦争の時にパイロットとして福岡の基地にいたという事を教えてくれた。日本の人が皆優しくしてくれたそうで日本が大好きだとも言ってくれた。きっとそういう経験があったから、日本から来た侵入者である私を許してくれたのだろう。
記念撮影をしてレンタカー事務所まで案内してもらい、握手をして別れた。とんでもない事をやらかしてしまったとは思うが、とんでもなく楽しいエピソードとして記憶に残っている。その後無事レンタカーを借りることができ、セブンマイルブリッジを渡り、アメリカ最南端キーウエストに行く事が出来た。そのお話しはまた後日。田代