エーゲ海に沈む太陽 アテネ

先日、今年初めてみんみんと鳴く蝉の鳴き声を聞いた。まだ梅雨が明けていない頃だったので、むしむしとする曇天のもと聞こえる蝉の声はまだ場違いな感じがした。蝉は青い空、白い雲のもとでこその鳴き声である。

蝉だけでなく、鶯が鳴けば春を感じるし、風鈴がちりーんと揺れれば夏の暑さの中でも涼感を感じることが出来る。同じ蝉でもカナカナとヒグラシが鳴けば夏の終わりを感じる。

これは世界共通の感覚と思いきや、外国の人は蝉の鳴き声や風鈴の音を雑音としか感じないと言う。

音だけでなく外国の人は、自然の景色や人間の造形美には感心するが、単なる海に沈む夕日には何も感じないらしい。

以前ギリシャに行った時のことを書いた。アテネのユースホステルに泊まった時同室になった日本人から、何々岬からエーゲ海に沈む夕日は素晴らしいと聞いた。当初アメリカ往復の旅行を予定していた私が、日本への航空券を捨ててしまい、何の予備知識もないままNYからアテネに来てしまっていた。だから現地で知り得た情報のみで観光を楽しんでいた。翌日早速行ってみた。

残念ながら名前を覚えていないのだが、サスペンスドラマの最後のシーンで「犯人はおまえだ!」と言っているようなエーゲ海に突き出た崖の上だった。海に沈む太陽は目玉焼きのようで、海に接している部分は目玉焼きに箸を刺したようにつぶれていた。太陽の周りのオレンジ色が東の空に向けて青、藍色そして黒に変わっていくグラデーションも見事だった。確かに今でもあんなきれいな夕日をみたことが無いと思う。

周りは日本人だらけ。3月だったので卒業旅行に来た学生がいっぱいだった。アテネはどこに行っても世界中の観光客であふれている。アテネの神殿に歴史的価値を感じても、この夕日には何も感じないらしい。自分が自然の一部になったような感触を楽しむことが出来るのが日本人で、その景色を客観的に眺めるのが世界の人ということだろうか。あの岬の名前を私は知らない。田代