イスタンブールにて

家族でスシロ―へ行ったとき、大学3年の娘がサーモンを前にして、北海道に行ってみたいと呟いた。家内は女の一人旅は絶対に駄目と言う。

30年前、私が彼女と知り合ったのはイスタンブールのアジア側の船乗り場であった。アジア側とヨーロッパ側に分かれるイスタンブールは橋とトンネルと船で結ばれている。その人は大きなバッグを両足で挟み、はしけのベンチに腰かけ船の到着を待っていた。今でこそモンゴル系の顔をした旅行者は中国人が定番だが、当時はまず間違いなく日本人であった。

日本を離れ4か月目ぐらいだったろうか。私は当初アメリカ往復2ヶ月の予定だったのが、日本に帰るのが嫌になり東へと流れに流れ、イスタンブールにたどり着いていた。久しぶりに見る日本人に私は声をかけた。彼女もバックパッカーで、なんとシリアから陸路トルコに入国したという。彼女は西へと流れていたようである。当時中東はイランイラク戦争の最中でミサイルの打ち合いをしていた。シリアトルコの国境と言えば後の内戦ではイスラム国によって日本人が拉致され殺害された町である。当時はアサド政権がしっかり統治していてそこまで危険ではなかったにしろ、シリアやヨルダンを女一人で旅をしていたという。

娘に彼女のような旅行をして欲しいとは絶対に思はない。しかし行きたいと思った所に相手がいないという理由で断念することはやめてほしいと思う。それが国内であればためらう理由などない。お金はバイトすればいい。時間は大学生である今しかない。旅の経験はプライスレス。いつ行くの?今でしょ!娘よ、行っちゃえ行っちゃえ!!  田代