月を堪能する秋

仲秋の頃、ススキが夕暮れに揺れている。 ススキの花の時季は意外と長く、初冬にも愛でて楽しめる場所がある。 秋は涼やかさに誘われるままに早々と眠りにつくと、気配を感じて夜半に目が覚める。 気配の正体は、窓から差し込む月の光である。 東の丘の林影から昇ってくる月が放つ光は冴え冴えとしていて伸び放題の雑木も月光を浴びて見事な影絵になっている。 季節の移り変わりが身にしみてくるそんな夜だ。 東の空から昇っていたのは更待月(ふけまちつき)で、夜更けに昇ってくるからついた月の名だ。 十五夜のあと、更待月までには、いくつかの月の名がある。 十六夜(いざよい)、立待月(たちまちづき)、居待月(いまちづき)、寝待月(ねまちづき)、そして更待月へと続く。 昔の人々が暮らしていた「夜更け」とはいったい何時位だったかというと、午後10時頃。 夜の闇を照明で明るくできるようになった現代とはまったく異なる暮らしが広がっていたのだろう。 日暮れが近づけば、外での仕事を終える合図。 桎梏の闇では歩くのもおぼつかない。 また、夜な夜な好きな人と過ごしたくなった時、頼りにしたのも月である。 月が少しでも出ていれば、闇夜の道も照らしてくれて、心通わす人の元へ向かうことができた。 月を心待ちにする気持ちは現代人の持つ気持ちとは、おそらく大きな違いがあったのだろう。 思い出されるのは東日本大震災の折に行なわれた計画停電である。 信号機の明かりすら消えて見慣れたはずの町は暗闇に包まれ、見知らぬ別の街のように見えた。 暗闇には何か特別な力がはたらいている。 昔の人達にとって夜更けが今よりずっと早い時間だったことの理由を何となく感じることができる、そんな夜を想いつつ眠りにつく。

JO